2009-11-21

タージ・マハルの思い出


かの麗しきタージ・マハルは、おそらくたいへんな愛妻家であったインドの王様が、若くして亡くなった奥方を偲んで大理石で造らせたという巨大な巨大なお墓なのであるが、それはインド北部のアーグラという場所にあって、そのアーグラはタージ・マハルなかったらぜったいにこんよな、と言いきれるくらい陰気で地味な雰囲気の町なのだった。夜にデリーから到着し、地球の歩き方に載っていた安宿に1階の部屋を案内された友人とわたしは、宿の食堂でご飯を食べたあと、それまで体験したことのないような激しい眠気に襲われる。なんこれ。ねむい。なんこれ。なんかご飯に変なの入れられたんかも……。部屋の一面は大きな窓になっていて中庭に面しており、念のため調べてみると鍵なんかこわれてぐらぐらなのだった。わたしたちはみの虫のように震え上がった。う……うちら今晩おそわれる! すでに時刻は深夜をまわっており、いまさら別の宿に移動することはできない。というか眠たすぎて動けないのだ。全身にドロリとまといつく倦怠感。からだが鉛のように重い。ベッドの脇の電話がなった。友人がよろよろと受話器に手を伸ばす。無言電話。さらに入口のドアの下に、まるですぐそこに誰かが立っているような二本足の影らしきものがあるのを見つけてしまう。そこで、ちびるほどに身の危険を感じたわたしたちが取った行動とは? 寝た。寝てしまった。あの時、わたしはすべてをあきらめたのだった。ほんとうに、眠いと、なんもできへんねんな……とくやしく思いながら意識を失っていったのを覚えている。そして翌朝無事、何事もなく目を覚ましたのでした。めでたしめでたし! こわかったなあ、あれはなんやったんやろうか、と言いながら朝ご飯をもぐもぐ食べ、蠅にたかられながらもしっかりとタージ・マハルを満喫。ほんとうに美しいですよ。ちなみにアメリカにはタジ・マハールという名のミュージシャンもいるらしいです。